【こんな演劇を観た】

 

サイボーグ侍

これっきりハイテンションシアター/東京公演:下北沢駅前劇場

平成7年2月2〜5日

by他故壁氏

 

 世は戦国、所は甲斐。「千年早き男」の異名を持つ信玄が懐刀・山本勘介は、彼の窮極の頭脳をもって戦いに傷つき息絶えた猛将・加藤段蔵を無敵の武士へと蘇生させた。信玄が日本を統一するための最終兵器――砕武具(サイボーグ)段蔵の誕生である。
 加藤段蔵の能力は、人間のそれを遥かに超えていた。失った右目の代わりに装着されたスコープは赤外線暗視鏡を内蔵し、暗闇での視界を確保する。失った左腕の代わりに装着された機械腕は投擲爆雷と火炎放射器を内蔵し、またその殴力は城壁を破壊することすらたやすい。胸部には切り裂かれた内臓の代わりに超小型核融合炉を内蔵し、融合炉を覆う隔壁は刀や弓矢の攻撃では傷ひとつつかない重装甲を有する。走れば風、怒れば鬼、舞えば嵐、唸れば閻魔。加藤段蔵の前に敵はなく、加藤段蔵の後に生き物の姿はなかった。
 しかし段蔵は、信玄と勘介の奸計にかかり、妻を殺害される。敵方の襲撃を装い、妻を殺害することによって段蔵を「現人鬼」としようとした勘介の策略は失敗し、段蔵は信玄のもとを去る。はぐれサイボーグは主を持たず、諸国を放浪するようになる……。
 正直言って、友人から「『サイボーグ侍』見に行けへん?」と言われたときは、「ああ、何か阿呆なお笑い演劇かいな」とタカをくくっていた。だって「サイボーグ侍」だよ? おなじハイテンションシアターの出し物には「超能力やくざ」ってのもあるらしい(笑)。そりゃ普通、笑うっきゃないでしょう。
 しかし、その期待はいい方に裏切られた。
 かっこいいのである。
 アクションもなかなかのものである。
 そして、合間合間にはさまるギャグのセンスもよい。
 役者も男衆はかっこいいし女衆はキレイでよろし。ギャグメーカーもこれまたよろし。演出のテンポもなかなかよろし。
 もともと、小屋に演劇を観に行くという習慣を持ち合わせぬ小生にとって、ここまで好みの世界が眼前で展開されようとは思っても見なかったのである。想像すらしていなかった。
 とにかく、キャラクタの配置がよい。
 信玄(演技者登場せず)の元には山本勘介と加藤〈サイボーグ〉段蔵。
 徳川家康の元には服部半蔵、柳生石舟斎宗矩、築山御前。
 織田信長の元には森蘭丸と〈極太和尚〉百貫。
 北条氏政の元には〈御代様〉北条政子、風魔小太郎、当麻猿翁、弾右衛門(笑)。
 そして、段蔵の殺害された妻に瓜二つの娘・お銀。
 ストーリーは段蔵を執拗に追う勘介と段蔵の葛藤、お銀と段蔵のロマンス、成り行きながら二度も助けられた半蔵と段蔵の友情、段蔵の左腕を落とした男・当麻〈猿飛佐助〉猿翁との因縁の戦い、「武士の鉄人」(笑)など、幾重にも織られた縦糸と横糸が見事に重なり合い、ダイナミックに展開されていく。
 惜しむらくは、今回が初演と見えて、台詞のトチリがいくつか見受けられた点か。山本勘介が「我が鉄砲隊」って言っちゃいかーん(笑)。
 一押しのキャラクタは四角い顔の服部半蔵・首藤健祐。見た目はトム・クルーズ風だが、真剣な表情でのギャグが冴える。愛刀村正への愛は築山御前の妖艶なうなじに勝る(笑)。
 ギャグで言えば、北条バカ殿・木下ランチャー。莫迦の演技と猿翁のアクションの落差が何とも素晴らしい。
 「サイボーグの悲哀」「武士の絆」「策略と知恵の戦い」「シリアスとギャグの緩急の妙技」「演劇と映像作品の接点への模索」――ありとあらゆるエッセンスが詰まった本作品。驚かせる演出も随所に散りばめられているが、これはネタばらしになるのでここでは触れますまい。再演されたら是非ご覧あれ。とにかくかっこいいでござる。ニンニン。
 予断ではあるが、次の「サムライスピリッツ」には是非サイボーグ侍・加藤段蔵を加えていただきたい。お願いしますよSNKさん(笑)。

1995.02.06

 

■お詫びと訂正■
 テリオス22号のレヴュー記事「MediPal サイボーグ侍」の中で、一押しのキャラクタ・首藤健祐を「トム・クルーズ風」と書きましたが、これは「チャーリー・シーン風」の間違いでした。お詫びして訂正いたします。

 

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