【他故壁氏の殿堂入り】

『GUNDAM CENTURY』みのり書房1981年9月22日発行・月刊OUT9月号増刊 定価1,800円

 この本がなければ、今の「ガンダムワールド」はなかったでしょう。功罪ともに大きな、ガンダム者のバイブルです。TVでは描かれなかった裏設定やモビルスーツ開発史は、スタジオぬえの「独断的創造(想像?)」であるにも関らず後のプラモ展開である「MSV(モビルスーツ・ヴァリエーション)」や続編『機動戦士Zガンダム』などに受け継がれ、メカ好き少年の心を鷲づかみにします。

 ファーストガンダムを愛するなら、本書はまさしくバイブルでしょう。本編のストーリーに触れる部分はほとんどなく、メカニックとSF設定にのみ焦点を当てているので、ストーリーを知らない若い方々には何が何やらってことにも……。ただ、スタッフたちの職人芸がインタヴューからひしひしと伝わってくるのが素晴らしいです。特に富野監督を除くスタッフと声優代表として永井一郎に話を訊いている点が他誌と一線を画しています。実にガンダムをSF的にしているスペースコロニーなどを実際のオニール計画で紹介する科学コーナー(執筆は今やと学会の重鎮・永瀬唯)なども充実しています。パワードスーツ、ウォルドー、ハーディマン、JIMスーツ……みんなこの本で覚えました。

 

『GUNDAM SENTINEL』大日本絵画1989年9月初版発行・モデルグラフィックススペシャルエディション 定価2,300円(税別)

 TV放映から10年、『GUNDAM CENTURY』から8年……続編である『機動戦士Zガンダム』『機動戦士ガンダムZZ』がTVで放映され、再びガンプラが注目を浴びます。そんな中、模型雑誌『モデルグラフィックス』は、バンダイと共同してガンダムのアナザーサイドを改造プラモで展開します。

 時は宇宙世紀0088、ぺズンに陣取った地球至上主義派ニューディサイズに対し、地球連邦軍は特務部隊タスクフォース・アルファを結成、アナハイム・エレクトロニクスから支給された特殊機Sガンダムを戦場に投入する。SガンダムはZZガンダムの発展機であると同時に、人工頭脳「ALICE」を搭載した「禁じられたガンダム」だった……。

 ガンダムデザイナー第3の男・カトキハジメを輩出した本作品、いま見るとかなり空回りの部分もあるのですが(模型をジオラマ写真に撮って雑誌展開するって、つまり『SF3D』のパクリじゃん!)、アニメーションで動かす必要のないデザイン(プラモ化できればどんなに複雑な構造でも奇妙なフォルムでも構わない)は弩迫力です。ガンダム界のデザイナーズブランドがここに誕生したわけです。「GUNDAM System」と「INCOM」のロゴがかっこいい!

 

『GUNDAM OFFICIALS』講談社2001年3月21日第1刷発行 皆川ゆか・編著 定価15,000円(税別)

 そして時は流れ、21世紀……「10年ごとに現れる」ガンダムムックの名著がまたここに出現しました。総ページ数896、重量3キログラム、製作期間足かけ3年。たったひとりの作家・皆川ゆかによって編まれた空前絶後の大辞典は、まさに21世紀の始まりにふさわしい「書物」となりました。

 本書は「地球連邦統合大学リーア分校出版局」の「宇宙世紀0100年記念事業出版物」である「経済人類学研究室助教授ミナカ・ユンカースの著書」を「正暦2001年」に「黒歴史提唱者ヨック・ワック・オニモット」が「3,000年前に書かれた書物をマウンテンサイクルで発掘して復刻した」形を取っています。このファンのツボ押しまくりの体裁の良さ! 一年戦争からデラーズ紛争までを網羅したそのデータ量には圧倒されます。

 実は小生もちょこっとだけ、執筆のお手伝いをしております。あとがきにも名前が載っていますが、本名だから判りませんよね(笑)。値段が値段だけにみんな購え!とはとても言えない本ですが、少なくともガンダムが好きなら持っておくべき21世紀のバイブルです。

 

「神亀ひこ孫大吟醸純米」 神亀酒造

 書物からいきなりお酒の話になって恐縮なのですが……。

 日本酒が好きになったのは、今はなき雑誌『デイズジャパン』(講談社)に連載されていた1ページコラム「居酒屋研究会」が発端でした。小生はこの1ページを読むためだけに、大学生にふさわしくないサラリーマン向け硬派写真記事月刊雑誌をこつこつと購っていたのです。雑誌は不振から早期に廃刊、連載は中断され、日本酒を好きになりつつあった小生はかなり落胆した記憶があります。ただ、大学の呑み会ではスーパードライにチューハイがメインの時代、日本酒があっても三増酒でまずくて宿酔が酷くなるものばかり……貧乏学生だった小生は「いい日本酒」を呑む機会に恵まれないまま社会人になりました。

 後にデイズジャパンの連載が単行本となり、『居酒屋大全』(講談社・太田和彦著、1990年06月11日第1刷)として刊行されたときには狂喜乱舞したものです。そして、この居酒屋研究会で「もっとも優れた日本酒」として紹介されていたのが埼玉の神亀酒造の「神亀」だったのです。

 造っている酒の総てが純米酒、流通になかなか載らない希少性、そして日本酒初心者の小生にもはっきりと判るその美味さ! 年を経て、様々な地方の美酒名酒に触れる機会も増えましたが、やはり小生のなかでのナンバー1は神亀なのです。神田に神亀をメインで呑ませる居酒屋「新八」があります(神田駅東口・03-3254-9729)。こんど一緒に呑みに行きましょうよ!

 

「ダバダ火振」 無手無冠

 普段呑む酒はビール(ドライ以外)、バーではスコッチやバーボンをロック、いい居酒屋では日本酒……小生は焼酎という酒があまり好きではありません。一時期ワインに凝っていた時期はありましたが、焼酎に凝っていた時期はなかったのです。

 店で呑ませる焼酎は「悪酔い」のイメージがありましたし、酒販店に並ぶ焼酎はパッケージ先行でちっともうまそうに見えません。個人的には「何かで割るのは邪道」だと思っているので、チューハイの類いも嫌いです。小生を本当に開眼させてくれる焼酎があったら……というのは常に思っていたことです。

 1997年、転勤先の徳島から東京に帰ってきて、最初に思ったのは「四国で噂に効いた幻の焼酎を呑ませてくれる店はないか」ということでした。その幻の焼酎が常備してあるなら、行きつけになりたい……何件かの店を回り、新宿のお気に入りの店「陶玄房」(新宿駅東口・03-3356-2393)でその名を偶然発見したときは、狭い店内で叫びたくなるほどでした。

 高知の栗焼酎「ダバダ火振」。絶対数が少なく、長期貯蔵酒のため生産も増やせず、酒販店での購入には2年待ちが当たり前と言われる、まさに「幻の焼酎」。その口当たりは絶妙で、小生の「焼酎絶対悪」の概念を根本から覆してくれました。

 そして今(2002年9月7日)、手元にその「幻の焼酎」の900ミリリットル瓶があります。インターネットは不可能を可能にしたのです。今ではYahoo! ショッピングでダバダ火振も普通に購えるようになりました。素晴らしい時代になったものですね。

 

『県立地球防衛軍』安永航一郎・著

 一番好きな漫画はなんだ、と訊かれたら「やっぱり『県立』でしょう」と答えます。九州から彗星のように現れた新人漫画家・安永航一郎は、今までの漫画の枠をいとも簡単にぶち破ってくれました。彼の得意とするものは「判るひとにしか判らないギャグ」……よく編集者が許したなあと思うほど、著作権ぎりぎりでの勝負を挑んできます。初の月刊連載である『県立地球防衛軍』は、東宝・円谷特撮に通じていなければ訳のわからない単なるゆるいギャグ漫画に過ぎません。しかし判っている人間(たとえば小生のような……)が読めば爆笑爆笑大爆笑! まったくもってずるい漫画であるとしか言いようがありません。

 まず斬新だったのが、各タイトルが『ウルトラセブン』のサブタイトルのパロディだったこと。「カレーの国から来た男」「あんたはだまれ」「元旦が来た」「楽しい隣人」「サイボーグの脚線」「まっする君応答せず」「グリコーゲンXを倒せ!」「別世界の県立」……随所に散りばめられたギャグも、キャラの名前も、みーんな東宝! 円谷! 見事です。脱帽です。こういう漫画で食べていけるなら、小生ほんとうにマンガ家になりたいです(笑)。

 氏は週刊連載『陸軍中野予備校』(これも凄いパロディだ……)時に小学館と喧嘩別れし、一時期ホサれます。復活は『巨乳ハンター』を待たねばなりませんでしたが、これがまた豪快なパロディもので……というか、氏はパロディでない漫画は一切描いてませんね、現在でも(笑)。アスカがレイの巨乳に嫉妬して巨乳ハンターに変身する同人版は完璧でしたな(大笑)。

 余談ですが、高校生のころ安永航一郎に憧れ、正月仮面やまっする日本を模写していたこともあってか、小生の漫画は「安永入ってる」と言われることが多いです。でも模写していたのは男性キャラだけで、女性キャラはむしろあさりよしとおがルーツなんですけど……。

 

『マンガの描き方』光文社カッパブックス 手塚治虫・著 1977年5月30日初版発行 定価580円

 小生は子供のころから「マンガ家になるんだ!」と思っていました。親も趣味のうちは構わないと思ったのか、小生の落書きには一切口をはさみません。小生もだんだん大きくなり、ストーリーものを描きたくなってきたとき、本書を求めたのも必然だったのかもしれません。

 手塚治虫の「漫画へのアプローチ」はあくまで「作劇へのアプローチ」です。絵が上手い下手に関係なく、ストーリーを重視せよ、と氏は言います。マンガ家たるもの、記憶力がよくなくてはならない。マンガ家たるもの、背景と構図くらい完璧に知っておかねばならない。マンガ家たるもの、奇想天外な話が思いつかなくてどうする……あとがきで「漫画は風刺だ」とズバリ言い切る氏の自信は相当なものです。

 小生がこの本から得た知識は「やっぱり墨は古梅園の三つ星だよな」ってことくらいでしたが(笑)。あと、原稿にペン入れするときには下に雑誌を敷くってことも。やっぱり知っているのと知らないのとでは違いますからね。古臭いなどと言わずに、マンガ家志望の方はご一読あれ。今の「キャラ萌え」時代にはない「何か」を得ることができます。

 

『少年のためのマンガ家入門』秋田書店 石森章太郎・著 1965年8月15日初版発行 定価600円

 手塚治虫を押さえて石森章太郎を押さえないって手はありません(笑)。本書は1965年に書かれており、まだ『仮面ライダー』も描かれていない時期です。氏は若干27歳。でも、すでに「人気漫画家」であることには変わりありません。

 本書はテクニック書ではありません。どちらかと言うと「石森章太郎を知る」ための書です。いまだに単行本未収録の『どろんこ作戦』と、つい最近ようやく単行本化された幻の名作『竜神沼』をテキストに、ギャグ漫画とストーリー漫画の作り方・作られ方を丁寧に追っていきます。

 前述の手塚治虫の本が「精神論」「テクニック論」であるのとは違い、石森章太郎は「読む漫画から描く漫画へのアプローチ」を主眼にしています。漫画を描くための即戦力になるのは手塚版ですが、国語の授業のようにゆっくりと読み進めることによって様々な関心を起こさせるのが石森版です。

 また、手塚版が「漫画くらい描ける大人になってください」とターゲットを成人に当てているのに対し、石森版では「少年に漫画の本当の面白さを判って欲しい」と子供にターゲットを絞っている点も異なります。総ての漢字にルビがふってある、小学校の学級文庫に置かれることを念頭に置いた、立派な「教育書」なのです。

 石森章太郎が好きなら、ぜひ押さえておいてもらいたい本です。

 

『中空知防衛軍』あさりよしとお・著

 あさりよしとおというマンガ家は本当に異能だなあと思います。これだけ永い間、マニアを熱狂させる漫画を量産しておきながら、一般的には全くと言っていいほど知られていない。まあ、テレビアニメには確かに向かない作品ばっかりですけど(笑)。

 氏の異能は投稿作品『木星ピケットライン』ですでに発現しています。当時高校生だったとは思えぬ絵の完成度、『2001年宇宙の旅』を見事にパロったストーリー、早すぎたハードSFギャグセンス……氏は恵まれた才能を活かすことなく北海道で職につき、同人誌で『中空知防衛軍』を発表します。これに目をつけたのは、投稿作品に賞を送った小学館ではなく、徳間書店でした。徳間のウリは「SFと怪奇、メカと美少女」。当時のアニメブームを逸早く察知した隙間産業でしたが、この徳間の作戦から様々な異能が発掘されたのもまた事実です。

 あさりよしとおは『宇宙家族カールビンソン』(後に『元祖宇宙家族カールビンソン』)で商業デヴュー。その異能はSFファン、特撮ファンの間で不動のものとなります。カールビンソンは有名な作品ですし、現在でも読むことができますからここでの説明は省きます。小生は逆に『中空知防衛軍』を推したいと思います。

 商業誌でリニューアルされた『中空知防衛軍』は、パワーアップしていました。元ネタはご存じ東宝特撮の最高峰『地球防衛軍』。北海道・中空知に宇宙人が飛来し、機動メカ・ホゲラMk-2の前に中空知は蹂躙されてしまいます。予算と人員の不足した中空知防衛軍は、好奇心旺盛な女子高校生を巻き込んでホゲラと宇宙人に対抗しますが……。ホゲラMk-2のデザインにはストリームベースが参加し、見事な高機動型(Rタイプ!)に生まれ変わっています。赤い機体がライデン機、白い機体がマツナガ機ってとこがまたツボです。中空知防衛軍の秘密兵器も素晴らしいアレンジが成されており、「マークの大群!」などは東宝マニアなら腹を捩って笑い転げることでしょう。

 特撮マニアを自称するなら、あさりよしとお作品は目を通すべきだと思います。そこに描かれているパロディが何の作品のモノなのかが判らないようでは、「マニア」としては失格です(笑)。小生は密かに「複合パロディ」と呼んで、安永航一郎と並びあさりよしとおを尊敬しているのですが、小生の漫画は「元ネタが判りにくい」と評判です(大笑)。

 

『冥王計画ゼオライマー』ちみもりを・著

 ロボットアニメは70年代が黄金期でした。いわゆる「マジンガーシンドローム」で、マジンガーZから始まったロボットアニメブームは一気に加速し、良作駄作を問わずお茶の間に侵入していきました。これを観て育ち、「将来、自分が考えたロボットものを描きたい」というマンガ家が現れても不思議ではありません。

 しかし、ロボットを扱った漫画で面白いものは限られています。アニメーションの動きに慣れてしまった今のひとにはなおさらでしょう。マーチャンダイジングと関係なくロボット漫画を描くのはある意味「描くだけ無駄な努力」です。本人が好きで描いていても、読者が受け入れられないのでは商業作品としては失敗でしょう。

『冥王計画(プロジェクト)ゼオライマー』は、ガンダムから始まったいわゆる「リアルロボット路線」で巨大ロボットものが激減した時代に喝を入れる漫画でした。掲載誌は『レモンピープル』、老舗のエロ漫画誌(ロリコン漫画という名称は本誌と『ブリッコ』が作り出した一種の「文化」でしたね)です。当然のように漫画もエロ漫画ですが、このエロは著者がこの雑誌で好きなロボットものを描きたいがために導入した「必然性のある」エロでした。こういう硬派な漫画ってなかなかないですよね。

 ゼオライマーは父の遺産。主人公はこの謎のGクラス(この時代には大型ロボットが実在し、AからFクラスまでの分類が成されている)ロボの操縦者として、クラスメイトの少女の家に招かれる。襲い来るロボット帝国ネマトーダの巨大ロボに無敵の威力を誇る、二人が乗ったゼオライマー。主人公は次第に、自分に二重人格の「他人」が宿っていることを知る。陰謀、野望、秘密。ゼオライマーは無限エネルギーを産み出し、完全な自己再生能力を持っていた。次第に街を破壊することも厭わなくなる主人公、次々にネマトーダのロボットを撃破するゼオライマー……そしてネマトーダの若き将軍は数々の失敗の責任を取るため、みずから強化カプセルに入り、Gクラスロボ・ローズセラヴィでゼオライマーと一騎討ちに出る!

 ちなみに同名のオリジナルビデオアニメは、漫画とはほとんど関係ありません。八卦ロボってなんじゃ?(苦笑)漫画の最終回は単行本描きおろし(第一部巻)ですが、連載版でみせたネマトーダ本部の地下工場に眠る組立途中のゼオライマー2号機が載ってない! 続きを読みたいと本気で思っているのですが、もともと遅筆の氏に「ガイバーなんかいいからゼオライマーを描け!」とはなかなか言えないですよね……。

 

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