【こんな本を読んだ】

生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術

泡坂妻夫 新潮文庫

by楽光一

 

 筆者は別に泡坂妻夫のファンでもないし、推理小説マニアでもない。第一、小説自体ここんとことんと読んでないし。
 だから、推理小説をレヴューできるほどの読書量もなければ知識もない私が、なんで泡坂妻夫なのか? と申しますれば。
 この本の形に惚れたからでんがな。
 そう、オビには堂々とこんなリードが載っておりました。
■世界出版史上に輝く驚愕の書 ついに刊行!
■「消える短編小説」が消える!
■この本の読み方
■一、はじめに袋とじのまま、短編小説をお読みください。
■二、各ページを切り開くと、長編ミステリーが姿を現わします。
 たしかに、開いてみますと、袋綴じです。正確には、16ページ単位で裁断のかかっていないページがあり、その一包みが袋綴じ状態となって14ブロックくっついている――ということになります。
 中表紙と奥付を除けば、本編は25ページの短編小説である、といえるでしょう。
 そして、16ページ単位の袋綴じを切り開くと、25ページあったはずの短編小説は長編小説の中に埋没し、「消えて」しまう、というのです。
 アイディアの勝利ですねぇ。
 問題があるとすれば、この25ページの短編小説が面白くも何ともないってことでしょうか。繋がりもギクシャクしていて、狙い通りとは言えないような気がします。
 筆者、未だにこの袋綴じを切り開くに至っておりません。
 長編小説の内容に関しましては、関心ある皆様の行動力に委ねさせていただきます。
 何で切らないのかって?
 切った瞬間に、この本の価値って限りなくゼロになってしまうような気がするんですよね。
 なんとなく。それだけ。
 ま、昔の洋書ってのは切り開きながら読んだわけだし、そのためにペーパーナイフってもんがあったわけだし。形としては昔はあったんだけどさ。
 今、それをこのクソ忙しい出版業界でやっちまうってのが凄いよね。ご苦労さま、加藤新栄社さん。

1995.02.06

 

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