どこを向いてもきらきらとイルミネーション。
吐く息は真っ白だけど、それに負けないくらいの色とりどりが街中には溢れている。
街行く人は誰も皆嬉しそうに歩いてて、見ているこっちもなんだか楽しくなる。
私も他の人から見たら嬉しそうに見えるかしら? 紫穂はそう思いながら抱えたままの小さな紙袋をきゅっと、抱きしめた。
中には今日の為に一所懸命選んだプレゼント。
いつもよりもちょっとだけ背伸びした服に、うっすらと施したメイク。
今日の為に、いっぱい準備して。
そして待ち合わせ場所であるここで、賢木が来るのをじっと待っていた。
さっきメールで10分程度遅れる、と連絡があった。今現在は約束の時刻から5分経った所。きっともうすぐ来てくれる。でも──。
『24日、空いてるか?』
そう訊かれた時、本当に嬉しかった。でも、それを素直に伝えるのがなんだか気恥ずかしくて、そっぽを向きながら小声で呟いてみる。
「空いてないわけ、ないじゃない」
センセイはいつも忙しいけど、クリスマスはきっと誘ってくれる、そう考えてなんの予定を入れてなかったのだから、誘ってくれたのは本当に嬉しかったのに。
彼女の態度を見た賢木は、苦笑しながら頭をポンポンと撫でてきた。
「オッケー、空いてるなら一緒に出掛けよう。待ち合わせは──」
約束を交わしたときの事を思い出し、紫穂はそっとため息を落とす。
せっかくセンセイの一番傍にいられるようになったって言うのに、今までみたいな態度になってしまうのは、どうしてかしら?
いままで必要以上につんけんとしたり、ケンカ腰な態度をとっていたのは、自分の気持ちを隠すためだった。でももう今は隠す必要がないわけで。
だったら今日からでもいいから、少しだけでも素直になってみよう。
こくん、と一人で決意を新たに頷いたその時。紫穂の目の前に、スズキのカタナがピタリと横付けされた。
「ごめん紫穂、待ったか?」
ヘルメットを無造作に脱ぎながら、賢木が降りて来る。ふるふると首を振ろうとして思いとどまり、賢木の目を見つめながら、少しだけ微笑む。
「うん、少しだけ」
その素直な返答に、紫穂の頭を撫でようとした賢木の手が、一瞬止まる。けれどもそれはまさしく一瞬で、大きくて心地よい手の平が自分の頭を軽く撫でてくれた。
「珍しく素直なんだな。今までだったら『待ってなんかないわよ』ってそっぽ向くか、『えー、2時間くらい?』とかってけんか吹っかけて来るかのどっちかだったのに」
素晴らしく直球な言葉に、紫穂はぷうっと頬を脹らませた。その顔を見て、破顔する目の前の人。
このまま怒って帰ってしまおうかとちらっと脳裏を掠めたけれど、先程の決意を思い出し、素直に自分の心を告白してみる。
「せっかくセンセイとこうして一緒に出掛けられるような関係になれたっていうのに、素直に応えられていないなぁって思ったの。少しでも素直に自分の気持ちを伝えられるなら、それに超した事はないでしょ?」
「……あー、まあ、そうだよな。透視れば判るかもしれないけど、やっぱり言葉で聞きたいってこともあるし」
賢木は軽く頷き、そっと紫穂の頭を自分の胸に引き寄せた。予想外の出来事に頬が思わず赤くなるのが判る。
「でも、紫穂はそのままでいてくれればいい。別に気取らなくても飾らなくても、さ」
(そんな紫穂だから好きになったんだし、な)
言葉の続きのようにさらりとそんな思念が流れ込んできて、びっくりして思わず賢木を突き飛ばす。
「うわ、ちょ、何すんだよ!」
「──知らないっ!」
突き飛ばされてバイクにぶつかりそうになった賢木を見て、ぷいっとそっぽを向いた。こんなにストレートに言われるのはとても気恥ずかしくてたまらない。
「……まあいいや。そろそろ行かねーと予約に間に合わなくなる」
賢木は一瞬で立ち直り、いそいそとメットを紫穂に投げてよこしてきた。
しっかりとなげられたそれを受け止めて、ニッコリと微笑み返す。但し、多少の含みを持たせて、だ。
「今日はどこへ連れてって下さるのかしら、センセイ?」
バイクに駆け寄り、先に跨がっていた賢木の後ろに乗り込む。
「とりあえずこないだ言ってた寿司屋に行こうかと。いいだろ?」
くぐもった答えが返ってきた。言葉では返さず、直接思念を送り込む。
(了解。あ、今日は泊まるって言ってあるから時間は気にしなくてもいいわよ?)
(……いやいやいやいや、さすがに泊まるのはヤバいって。まだ中学生なんだから。せめて日付が変わる前には帰せるようにするからな)
(あら、センセイってば臆病ね)
(臆病とかじゃないだろー。……まあいいや、とりあえず行くぞ)
(はーい)
そうしてバイクはイルミネーションの中を縫うようにして走り出した──。
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