テッコンV

 

前回までのあらすじ


 我らが大韓民国の誇る最新鋭星間紛争防御兵器・テッコンVは、そのあまりある能力で次々と魔の侵略者から我らの祖国を守ってきたらしい。
 しかし、その力も遂に尽きる時が来たらしい。地獄の侵略者・ヤキニク星人(仮名)がキムチ星人(仮名)を連れだって地球にやってきたらしいのだ。当然我らの祖国を守る為、三人の若者たちは戦ったらしい。しかし、その戦いも虚しく、テッコンVは破壊され、ソウルは星人の手に落ちたらしい。
 テッコンプロジェクトの責任者・魯博士(仮名)は、その頃新型のロボットを開発中であったらしいが、それにはどうしても必要なものがあったらしい。
 博士の息子・感太(仮名)の身体であるらしい。


第27話 

見よ! これが新型テッコンだ! 大空に舞う三機のマシン!


 ソウルの上空六〇〇〇メートルには、依然ヤキニク星人(仮名)の巨大宇宙船が浮かんでいたらしい。その周囲には薄い電磁バリアが張り巡らされているらしい。何となく、蒼い空が歪んで見えたらしい。
 地上では、破壊活動を休止したキムチ星人(仮名)自慢の惑星侵略兵器らがその巨体を休ませているらしい。そんな光景を横目で見ながら、キムチ星人(仮名)惑星侵略部隊の長・御器(仮名)は言ったらしい。
「いい眺めだわい。世界一の科学力を誇る韓国のテッコンがあの程度なら、この地球はもらったも同然よ。のう? 栗酢(仮名)将軍」
 ヤキニク星人(仮名)惑星侵略部隊の長・栗酢(仮名)は、その問には答えなかったらしい。栗酢(仮名)は、そのあらゆる光線を反射しない奇妙な皮膚を持つ右腕を眺めながら、昨日のテッコンとの戦いを振り返っていたらしい。
(強かったな……あの少年……)
 栗酢(仮名)の言うあの少年とは、我らがテッコンVのチーフパイロット・金太郎(仮名)のことであったらしい。昨日の戦いで栗酢(仮名)は、大破したテッコンから這い出し、愛機プルゴギ(仮名)のフェイスガードをテッコンドーで叩き割った少年を見たらしい。テッコンVの性能も予想を遥かに上回る物であったらしいが、少年の底力にも驚かされたらしい。
「何が不満なのだ? 栗酢(仮名)将軍」
 御器(仮名)は怪訝そうに言ったらしい。栗酢(仮名)はまたもや彼の問に返答しなかったらしい。赤い絨毯の敷き詰めてあるだだっ広い隊長室に、再び静寂の時が訪れたらしい。
 一方、こちらはテッコンベース(仮名)――プサンの港は、噂で持ちきりだったらしい。
「村の電力消費量が普段の二〇倍になったらしい」
「それも、あの国有のテッコン島(仮名)がほとんどを持っていってるらしい」
「あのテッコン島(仮名)は、夜の夜中でもうっすらと島全体が光るほど電気を使っているらしい」
「何かが地下で進行しているらしい」
 噂は絶えなかったらしい。
 そんな中、金(仮名)は博士の部屋にいたらしい。
「博士、これから我々は一体どうすればよいのですか? 教えて下さい」
 金(仮名)はそう言って、博士の方を見据えたらしい。博士は多少困ったような表情を見せ、その後ゆっくりと口を開いたらしい。
「金(仮名)くん。実は、君には隠しておいたプロジェクトがある。と言うより、まだ誰にも話していないプロジェクトだ。テッコンプロジェクトは第二段階に入っているのだ」
「何ですって」
 金(仮名)は驚いたらしい。初耳だったらしい。博士はデスクの上に置かれたモニターの方を見ながら、言ったらしい。
「プロジェクトの第二段階とは……内需拡大に伴うテッコンの完全国内生産と高性能化、そして君たちの負担を減らす新型コンピューターの導入のことだ」
「どういうことです?」
「新型テッコンVは既に80%完成している」
 その言葉は金(仮名)にとって衝撃だったらしい。昨日破壊されたばかりのテッコンVの代わりが、もう80%も作られている? しかも、それが自分の知らないうちに……そのショックは計り知れないものであったらしい。
「で、それは朴(仮名)や張(仮名)には……」
「まだ知らせてはいない」
 博士はモニターに写し出されたらしい新型テッコンの設計図から目を離すと、窓から外の海岸に目を落としたらしい。その表情は、何かを言い出せないもどかしさに溢れていたらしい。
「リーダーである君にまず知らせるのが筋だろう? 残りの20%はコンピューター系統の装備だけだ。あと一日もすれば、君たちには新テッコンVで飛び立ってもらうことになる。今度のテッコンはロボット形態の時は以前と変わらぬ操縦法だが、分離形態の操縦法も知っておく必要があるからな」
「分離形態?」
「新テッコンVは三機のメカが合体して形成される全く新しいシステムを持つロボットだ」
 金(仮名)の目が輝いたらしい。
「早速、朴と張に分離形態の操縦マニュアルを持っていきます」
「よろしく頼むよ」
 博士に三冊の分厚いマニュアルを渡され、金(仮名)は部屋を飛び出して行ったらしい。
「朴(仮名)! いるか?」
 その金(仮名)の問の答えは、言葉ではなく平手打ちであったらしい。
「あんたねー、他人の部屋に入る時にはノックくらいしなさいよ! 何考えてんだか」
 金(仮名)の視界には、僅かに朴(仮名)の下着姿が写っていたらしい。金(仮名)は慌てて彼女に背を向け、焦りながら言ったらしい。
「ご、御免! 別に覗くつもりは、な、なかったんだよ」
「言い訳はいいわ。で、何の御用?」
 振り向くと、既に朴(仮名)は服を着ていたらしい。金(仮名)は分厚いマニュアルを突き出し、得意気に言ったらしい。
「朴(仮名)、これを読め! 待ち望んでいたものが、こんなに早くやって来るとは思わなかったよ!」
「何なの? この分厚い本は」
「お前は表紙の字が読めんのか? ほれ!」
 そう言って、金(仮名)は朴(仮名)にマニュアルの一冊を放り投げたらしい。それを受け取ると、朴(仮名)は表紙に書かれたタイプ文字を読んだらしい。その瞬間、彼女の目も輝いたらしい。
「新……テッコンV……操縦マニュアルですって? 一体どういうことなの?」
「新型テッコンVは明日にでも始動する。分離形態時の操縦法を頭に叩き込んでおけよ! 俺は張(仮名)の方へ行く」
 そう言って、金(仮名)は駆け出そうとしたらしい。しかし、その手を朴(仮名)が握って放そうとしなかったらしい。驚いたらしい金(仮名)の顔を朴(仮名)は覗き込み、言ったらしい。
「また一緒に戦えるのね」
「そうさ。祖国を……いや、この地球を守れるのは我々だけだ。そして、俺のパートナーは君だけだ」
「でも、当分一緒になるつもりはないわよ。ほとぼりが冷めるまではね」
 くすっと笑うと、朴(仮名)は金(仮名)の鼻を摘んだらしい。苦笑いするらしい金(仮名)。彼らの会話の締め括りは、大抵この一言であったらしい。両者とも、紛争の全てが解決したら、結婚する意志は持っていたらしい。だが、今は時期ではないと考えていたらしい。
「お前の名前が賢姫(仮名)でなければ、こんなことにもならなかったのにな」
「それはあなたが金(仮名)でなければっていうあたしの言い分でもあるのよ」
 ふたりは笑い合ったらしい。


「栗酢(仮名)将軍に報告いたします」
「何事か」
 栗酢(仮名)は、昼寝の時間を邪魔されて少々不機嫌そうな声で言ったらしい。その声を聞いて、連絡将校は暫し躊躇したが、気を取り直して言ったらしい。
「先日破壊したテッコンVの基地らしき島を発見いたしました。その島から、多量のエネルギー反応が検出されたので、御報告に上がった次第です」
「多量のエネルギー反応……?」
 栗酢(仮名)はゆっくりと起き上がると、連絡将校の持つデータメモリーを受け取り、自らの機械にセットしたらしい。モニターには、テッコン島(仮名)が写し出されていたらしい。そのグラフィックは、明らかにテッコン島(仮名)での特殊な計画を匂わせるものであったらしい。テッコン島(仮名)だけが、周囲の漁村の二〇倍以上の電力を消費していたらしいのだ。
「調査の部隊を送り込め。御器(仮名)将軍の24部隊(仮名)が良いだろう」
「了解しました」
 連絡将校は一礼すると、部屋を出たらしい。栗酢(仮名)は、不吉な予感に襲われ、昼寝の続きが出来なくなっていらついていたらしい。暫くベッドの中で悶々とした後、不意に起き上がると、早足でブリッジへと向かって歩いていったらしい。
「全艦第三戦闘配備! 地上にいる残存兵力は全てこの母艦セーダ・ヒム(仮名)の周囲に集結しろ!」
 艦内に警報が鳴り響き、空気が一瞬にして緊張したらしい。第三戦闘配備とは、昨日テッコンVと戦闘した時と全く同じ戦闘配備であったからであるらしい。
「将軍! これは?」
 貴賓室から飛び出てきた御器(仮名)は、隊長室ではなく、ブリッジにいる栗酢(仮名)に驚き、素っ頓狂な声を上げたらしい。しかも、第三戦闘配備とは? 御器(仮名)には、どうしても理解出来なかったらしい。
「テッコン以上の敵が攻めて来たとでも言うのかね? 栗酢(仮名)将軍。有り得ん! 有り得んことだ!」
 その言葉には全く耳を傾けず、栗酢(仮名)は配備完了の声を待ったらしい。彼の勘は外れた試しがないらしい。
「配備完了!」
 その声を聞き、栗酢(仮名)は口もとに微笑みを湛えたらしい。そして、言ったらしい。
「プルゴギ(仮名)のフェイスガードの換装は済んでいるな?」


「張(仮名)! どうだ、新テッコンVだぞ!」
「本当か? 金(仮名)! 嘘だったらただじゃ置かないぞっ!」
 張(仮名)と金(仮名)は、手を取り合って喜んだらしい。力持ちの張(仮名)は、思わず金(仮名)を廊下の壁に打ちつけるほど振り回していたらしい。血だらけになった金(仮名)を大きく振り回し、さらに悦びを噛みしめるように金(仮名)の肩を上からどかどかと叩いたらしい。
「この新テッコンVがあれば、鬼に金棒、猫に小判だぜ! な、金(仮名)」
 金(仮名)は頭から血飛沫を上げながらうなずいたらしい。
「テッコンチームに告ぐ。至急、ブレインルームに集合してくれ。話したいことがある」
 博士の声で、アナウンスがあったらしい。早速、三人はブレインルームと呼ばれる博士と彼らの集合部屋へと向かったらしい。
「どしたの? その血は」
「いや、なに」
「諸君に聞いてもらいたいのは、そのマニュアルにはない新テッコンVの秘密についてだ」
 三人の言動などお構いなしに、博士は彼らが部屋に入り次第、言葉を発したらしい。三人は瞬時に静まり、博士の声に耳を傾けたらしい。
「今回のテッコンプロジェクトによって、我々技術スタッフは今までのテッコンの戦いと、今回の敗北のデータを集約し、現段階で最も優れた星間紛争防御兵器を作り出したつもりでおる。それが、新テッコンVだ。前のテッコンに八四ヶ所の改良及び新機構を加えてある関係から、正式名は『84テッコンV』と言う」
 博士の後方に存在する巨大なプロジェクターに、新型テッコンVが写し出されたらしい。頭部のデザイン以外は、前のテッコンとは似ても似つかない直線で構成されたボディ、明らかに武装強化されたフォルム、そして運動性を高めるための各間接駆動部の強化等が、この新テッコンを無敵さを強烈に印象づけていたらしい。
「新型テッコンVは、全高三○・七七メートル、作戦全備重量八八・二九トン、エンジンには新型転換炉『ふげん2』(仮名)を使用している。そのネット出力は一六・五万キロワットだ」
 博士の説明していく最中、プロジェクター表面にそれらの数値が現れては消えていったらしい。それに見入ったらしい三人の姿。
「装甲には、新素材であるテッコニウム合金(仮名)を使用した。前回使用の超合金テッコン(仮名)の完全精製金属だと思ってもらえばいい」
 複雑なテッコニウム合金仮名の化学式が写し出され、続いて画面は各機体の説明に移ったらしい。
「金(仮名)くん、君の乗る機体の名はスカイテッコン(仮名)。空中における運動性はこの地上にある全ての空中兵器を超える。最大速力はマッハ15だ。完全VSTOLFで、滑走路を選ばない。武装についてはマニュアルを読んでおいてくれ。君の機体がリーダー機となる。合体時には、背中のブースターと腕部、メインコントローラーとなる。次に、張(仮名)くん」
 画面が切り替わるらしい。
「君の機体の名はランドテッコン(仮名)。飛行性能はスカイテッコン(仮名)には劣るが、その装甲はあらゆる破壊兵器を跳ね返す。史上最大の機動戦車だ。破壊力では三機の中で最高の位置にある。合体時には胴体となる」
 画面が切り替わるらしい。朴(仮名)が喉を鳴らすらしい。
「次に朴(仮名)くん、君の機体の名はマリンテッコン(仮名)。海中作業と戦闘のための能力はピカ一だ。空中においても、爆撃機構や空中給油システムなどを持ち、他の二機の協力なバックアップ役となる。合体時は脚部だ」
 博士はそれぞれの機体の説明を終え、一息ついたらしい。その表情は、つい先程金(仮名)に見せた、あの多少困ったような、何かを言い出せないもどかしさに溢れた表情であったらしい。
「それと、もう一つ……紹介したいものがある」
 画面が切り替わったらしい。そこには、ヤカン頭のマスコット的ロボットが写っていたらしい。
「屋感太(仮名)……新テッコンの異常や状況を逸早くこのテッコンベース(仮名)に伝える、いわばテッコンの分身のようなロボットだ。この新型コンピューターシステムと連動した感太(仮名)の導入をもって、テッコンプロジェクトの第二段階は完了する」
 三人は、その画面に写されたロボット、感太(仮名)をじっと見たらしい。その六つの目は、驚きに見開かれていたらしい。
「感太(仮名)って……こいつ、あの感太(仮名)……」
「博士! まさか……」
 博士はくるっと皆に背を向けると、ぽつっと言ったらしい。
「許してくれ給え……どうしても、この新型コンピューターにはどうしても感太(仮名)の肉体が必要だったのだ……感太(仮名)は死んだわけじゃない。テッコンの頭部で元気に生きておる。屋感太(仮名)は、いわば遠隔操縦の肉体と同じだ。ヤツとて、納得してくれるじゃろう……」
 三人は悟ったらしい。新型コンピューターとは、三人が三人とも意識不明、もしくは死亡した段階で回路が切り替わり、テッコンVのコンピューター自身が敵に対処し、戦闘後に基地に帰還するシステムであるらしい。それを行う時、コンピューターには意志が必要となるらしい。その「意志」の部分に、博士の息子・感太(仮名)の脳を埋め込んで封印してしまったらしいのだ。つまり、新テッコンVは、「生きた脳」を持つサイボーグとも言えるロボットであるらしいのだ。
「このシステムが完成を見たことによって、新テッコンVは天下無敵の最強防御兵器となったのだ。感太(仮名)はテッコンの中にいる時は何の返事もしはしないが、この屋感太(仮名)が肉体の代わりをしてくれるから、特に不便は感じないはずだ。それに、これはヤツの望んだことでもあるのだよ」
「感太(仮名)が……?」
 朴(仮名)が泣きながら博士に訴えたらしい。
「酷い! あんまりだわ。それでも親なの? 親子なの? 信じられない……あんまりよッ!」
 博士は、感太(仮名)を呼んだらしい。部屋の隅から、屋感太(仮名)がやって来たらしい。感太(仮名)は三人の前に来ると一つおじぎをし、言ったらしい。
「やぁ、皆んな。僕のことだったら心配しないで。皆んなと一緒に戦いたいだけなんだ。僕はいつでもこうして皆んなと話せるし、握手することも笑い合うことも、殴り合うことだって出来る。握った感触や殴られた傷みも感じるし、特に不便はないよ。父さんを責めないでほしいんだ」
 三人はその言葉に、涙したらしい。


「24部隊(仮名)、集合しました」
 栗酢(仮名)と御器(仮名)の前には、むくつけき男どもが並んでいたらしい。御器(仮名)将軍のお気に入り、特殊工作部隊24(仮名)の五人であるらしい。全員が青いパイロットスーツに身を包み、四人が後ろに、リーダーが前になって指令を聞いていたらしい。
「言うまでもなく、諸君は特殊部隊だ。隠密行動を心掛けてほしい。理由は問うな。探る場所は、プサンと呼ばれる港町の傍にある島だ。電子センサを使えば、どの島がターゲットかは言わなくても判るはずだ。目的は、その島の探索と機密の有無、そして少しでも怪しい部分があったなら報告してほしい。破壊工作の有無はそれから指定する。以上、何か質問は?」
  後ろの一人が手を上げたらしい。
「一つだけお聞かせ願いたい。テッコンV以上の敵が存在する可能性は?」
「数値で出せるものではないが、ゼロではない」
「了解しました。我ら24部隊(仮名)、第二戦闘装備で出撃いたします」
「頼むぞ」
 その七分後、巨大宇宙船から矢のように飛び出す濃紺の機体が五つ見られたらしい。
「どういう意味があるのだ? あの探索行には」
 御器(仮名)は栗酢(仮名)に尋ねたらしい。しかし、栗酢(仮名)はブリッジの窓から消えていく五体のマシンを見たまま、一言も言わなかったらしい。
「栗酢(仮名)将軍、プルゴギ(仮名)セットアップ完了しました」
「待っていた! このアナウンスをな!」
 栗酢(仮名)は、マントを翻らせながらブリッジを出、特別格納庫へと向かったらしい。


「OTHレーダーに反応。敵機襲来、距離北西約三○○キロメートル。当テッコンベース(仮名)に到着の可能性は68%」
 感太の金属質の声が、ブレインルームに鳴り響いたらしい。
「まさか、臭ぎつけられた?」
 金(仮名)が言うが早いか、博士の指令が飛んだらしい。
「テッコンチーム、各機搭乗!」
「了解!」
 三人は、新たに作られた各機へのシューターを滑り下り、それぞれの機体に搭乗したらしい。
「スカイテッコン(仮名)、発進!」
「ランドテッコン(仮名)、発進!」
「マリンテッコン(仮名)、発進!」
 三機は飛び立っていったらしい。
 その頃、24部隊(仮名)は目的の島を電子センサで発見していたらしい。隊長機が機首を落とし、地上に近づいていったらしい。人々は逃げ回り、都市機能はマヒしていったらしい。24部隊(仮名)の五体のロボットは、その静かな漁村に着地したらしい。
「この山に向こうに目的の島がある」
  隊長機が指さしたらしい。
「どうする? 機を放棄して探索行に向かうか? それとも、小手試しに全機で島に突入するか?」
 部下のこのあまりに配慮のない意見は、隊長によって無視されたらしい。隊長は、部下の二人を機に残し、その他三人で島に出かけることを提案し、全員に承諾されたらしい。すぐさま行動が開始されたらしい。三体のロボットは山の雑木林に隠され、隊長以下三人が探索行に向かったらしい。残された二人は、いつでも飛び立てるようにエンジンを温めて待っていることとなったらしい。
「しかし……」
「あん?」
 残された二人の隊員は、互いにインカムで意見を交換しあっていたらしい。片方の隊員が語りかけたらしい。
「ウチの大将と違って、栗酢(仮名)将軍は慎重派というか、あらゆる可能性も探ってみないと気のすまない性格らしいな」
「ま、だからあの若さで将軍なんだろうけどな。多少、心配症気味な所もあるよな」
「昨日の今日だぜ。テッコンV以上の敵が同じ国内にいるもんかね」
「ま、いないことを確認すれば、将軍閣下も安心してお休みになれるだろうけどよ」
「ちげーねーや」
 笑いが二つのロボットの中にこだましたらしい。そんな中、両パイロットのインカムに怒号が鳴り響いたらしい。
『た、助けてくれ! すぐ近くの海岸だ! 強力なメカが潜んでいやがった! 一機来い!』
「何だぁ?」
 一機が飛び立ったらしい。その近くの海岸には、三人の男どもが潜航艇の残骸を纏って倒れていたらしい。すぐさま収容し、ロボットは元の山までやって来たらしい。
「一体どうしたんです、隊長」
「判らん。とにかく、凄い性能の潜水艦か何かだ。我々の簡易潜航艇が粉々にされてしまった」
「レーダーに反応! 戦闘機らしいです」
 五人が五人とも、空を見上げたらしい。その、雲ひとつない晴天の中に、一機の不思議な形態をした戦闘機を発見したのは、それから僅か三秒後のことであったらしい。
「全機展開、各個迎撃!」
 その隊長の声と共に、まず二機、つづいて三機のロボットが大空に舞い上がったらしい。濃紺の機体が怪しい光を放ち、大空中戦が展開されるはず――であったらしい。
 しかし、事実は違ったらしい。
「何?」
 24部隊(仮名)のロボットは、その謎の戦闘機によってことごとく撃墜されていったらしいのだ。
「三番機!」
 隊長機の目の前で、三番機が粉々に砕け散ったらしい。その破片は雑木林に突き刺さり、民家を破壊したらしい。そして、あっという間に視界をよぎるらしい戦闘機の影。隊長は、唇を噛んだらしい。
「……勝てない!」
 第二戦闘配備を施した彼らの機体は、もともと大規模都市破壊を目的とした、かなり強力な火力と装甲を持つ機体であるらしい。それが、まるで水につけたマグネシウムリボンのように燃え、一瞬にして消えていくらしい。彼らは、完全に動転していたらしい。
「着地、地点はM22R13だ!  集結しろ!」
  24部隊(仮名)の残り四機は、山の中腹に集結したらしい。巨大な身体が木々を凪ぎ倒し、あるものは倒れ、あるものは膝をついた状態で止まったらしい。全高二五メートルを超える巨体が震えていたらしい。
「隊長、 前方に巨大戦闘車両接近!」
 それは、すでに視界にも捕らえられていたらしい。恐ろしく巨大な、そして無骨な戦闘車両らしい。キャタピラを駆動し、ゆっくりと24部隊(仮名)のいる山へと近づいていたらしい。
「危険です!  密集体型を解きましょう」
「判った。散開!」
 しかし、その指令は一歩遅かったらしい。最も手前にいた五番機に、大口径キャノン砲の直撃弾が襲い掛かっていたらしいのだ。五番機はその身体に巨大な風穴を開けられ、その動きを止めたらしい。他の三機は、一斉に飛び立っていたらしい。
「ど……どうなっているんだ?」
「そ、そうだ! 連絡を……」
  隊長は、暗号発信機に手を伸ばしたらしい。そのキーを震える手で叩き始めたらしい。
「!」
 しかし、全てを伝え終える前に、その発信は途切れることとなったらしい。隊長機が落とされたらしいのだ。海からの狙撃にも似た攻撃だったらしい。その火線の方向には、先程簡易潜航艇を粉々にした、驚異の潜水艦が顔を出していたらしい。残された二機のパイロットは、恐怖したらしい。
 そんな、空中で躊躇している二機も、一瞬のうちに戦闘機の強力な光線砲で焼き切られてしまったらしい。


「将軍閣下、入電があったのですが……」
「が、とは?」
 栗酢(仮名)は怪訝そうな顔を通信将校に向けたらしい。通信将校は表情一つ変えず、続けたらしい。
「途中で電波が跡絶えております。こちらで受信出来た範囲での解読文のみ紹介いたします。えー、『敵機発見。強力な兵器を搭載した戦闘機と戦闘』、ここまでです」
「少なくとも、戦闘機が一機と、それ以外にいくつかの戦闘機械が存在したらしいな。しかも、24部隊(仮名)が一撃のもとに破壊されてしまう程の……」
「何? 24部隊(仮名)が全滅? じゃ、テッコンVを超える能力を持つ戦闘機が存在したと」
 驚きの声とともに振り返ったらしい御器(仮名)の表情にも眉一つ動かさず、栗酢(仮名)は続けたらしい。
「その通りです、御器(仮名)将軍。私の予想が悪い方に的中したようですな。指令! 全艦第二戦闘配備! 全砲門開け! 地上にいる残存兵力は即時参戦仕様で待機! 艦内温存兵力も各個に出撃準備を開始せよ!」
「……しかし栗酢(仮名)将軍、大丈夫だよ。このセーダ・ヒム(仮名)には残されているだけで六〇機の戦闘ロボがある。テッコンとの戦いでも二〇機落とされたが、まだまだ。そんな得体の知れない敵に負けるわけが……」
「私も出ます、御器(仮名)将軍。私に何かあったなら、後のことはよろしくお願いします」
 そう言って、栗酢(仮名)はブリッジを出ていったらしい。先刻の特別格納庫のプルゴギ(仮名)の状態なら、以前のテッコンVを倒す保証はあるらしい。しかし、今度の敵は、数えるほどの戦闘機で24部隊(仮名)の五機を一瞬にして破壊した敵であるらしい。勝つ保証は、どこにもないらしい。栗酢(仮名)はしかし、悦びで一杯であったらしい。
 この宇宙に、今まで彼よりも強い相手は一人たりともいなかったらしい。プルゴギ(仮名)と栗酢(仮名)のコンビネーションはそれまでに完璧だったらしい。そこに、先日のテッコンVが現れたらしい。テッコンVは破壊したものの、プルゴキ(仮名)は搭乗者の少年によって、自慢のフェイスガードを叩き割られているらしい。
「プルゴギ(仮名)の搭乗システムを作動させろ。出る」
「しょ、将軍が再び自ら……」
「軍の士気を高めるのに最も有効な手段だと確信しているのだがな」
 そう言って栗酢(仮名)は愛機プルゴギ(仮名)のコックピットシステムに入ったらしい。プルゴギ(仮名)のコックピットは、この母艦セーダ・ヒム(仮名)の特別格納庫に格納される場合、本体から分離して搭乗を行うようになっていたらしい。コックピットシステムの浮遊するその横で、鬼神プルゴギ(仮名)が再び覚醒しようとしていたらしい。
「将軍、出撃準備完了です。いつでもどうぞ」
「了解。全艦アナウンスにつないでくれ」
 艦内に、三たび栗酢(仮名)の声が鳴り響いたらしい。
「諸君、我々は勝利者である。しかし、完全な勝利にはほど遠い勝利者である。その証拠に、昨日破壊した地球のロボット兵器に匹敵すると思われる戦闘メカが24部隊(仮名)を壊滅させた。我々は、敵対する残存勢力を徹底的に叩き、この地を第二の祖国とするべく戦わねばならない」
 歓声が、艦内のあちらこちらで上がったらしい。
「第七、第八、第九中隊は東に展開、第一〇、第一三、第一五中隊は西に、第一七、第一八、第二二中隊は北、第二七、第二九、第三〇中隊は南に展開! 第三中隊と第四中隊は私に続け! 以下は戦闘に備えて待機! 以上、作戦コードは昨日と同様『電撃・稲妻・烈風』だ!」
 五〇機にのぼる巨大なロボット群が、再びソウルの上空を覆った。


「金(仮名)、どうやら敵さんも一斉攻撃に出たみたいだよ」
 ランドテッコン(仮名)が巨大なパラボラアンテナを開いて、ソウルの動きを探っているらしい。張(仮名)は、ソウルでの星人の動きをキャッチしたらしいのだ。狭いコックピットの中で金(仮名)は、じっくりと作戦を練っていたらしい。新型テッコンVの各メカの素晴らしさは、先の戦いで充分に判ったらしい。合体モードは切り札として取っておくことが出来るほどに、各機の性能は素晴らしかったらしい。金(仮名)は何度目かのマニュアル読破を開始したらしい。
「ヤツがまた出て来る。ヤツが」
「あの、真っ白な、めちゃくちゃ強いロボットかい」
「そうだ。多分、あの軍の中で一番の腕利きのロボットだ。旧テッコンはヤツにかなわなかったけど、この新テッコンなら間違いなくヤツを葬ることが出来る! 少なくとも、互角に戦うことは容易だろう」
「でも、まだ敵のロボットは何十体もあるのよ。どうやってそれらを叩くの? いくら新テッコンが高性能だからって、数をこなせるかどうか……」
「弱音は禁物だ。少なくとも、こいつは史上最強の防御兵器だ。てェことは、韓国を守ることだけは最低限保証されてるってことさ。シャレじゃなく、こいつにはそれだけの能力がある」
 金(仮名)のその強い口調に、朴(仮名)は安心したらしかった。彼の言葉には、嘘のない気持ちが込められている。この人は、信頼出来る――朴(仮名)の、偽りのない気持ちであったらしい。
「OK、今から三分後にソウルに向けて出撃する。その間に、気持ちの整理をしておけよ」
 金(仮名)はそう言うや否や、スカイテッコン(仮名)のコックピットから飛び降り、マリンテッコン(仮名)の所まで駆けていったらしい。コックピットカバーを上げて、朴(仮名)はそれを迎えたらしい。コックピットの端に手をかけ、金(仮名)はよじ登るように身体を乗り入れる恰好をしたらしい。
「君と肉声で話せるのも、これが最後かもしれない」
「いきなり……何言うのよ」
「正直な気持ちだ。新テッコンの性能は素晴らしい。だが、操縦する人間は以前と同じだ。扱いこなせるかどうかは、やってみなくちゃ判らない。だから」
「だから?」
「君の命を、俺に預けてほしい」
「いつもしていることだわ」
「いや」
 金(仮名)は朴(仮名)の目をじっと見たらしい。そのまま視線を逸らさずに、二人は会話を続けたらしい。
「今回は……テッコンチームにではなく、金(仮名)という一人の男に、君の命を預けてほしい」
「……金(仮名)……」
 二人は軽く抱擁し、その唇を重ねたらしい。ランドテッコン(仮名)の中では、一人張(仮名)だけが、その光景を見ないように配慮しながら、レーダーからのデータを映像化していたらしい。そして、ヘルメットのマイクを伸ばして言ったらしい。
「三分たったよ。ハラ決めて行こうや」
「了解」
「……了解」
 金(仮名)はスカイテッコン(仮名)のコックピットに駆け込み、始動スイッチを入れたらしい。新型転換炉が回転を開始する音が、山々にこだましていったらしい。
「出撃!」
 三機は大空高く舞い上がっていった。いよいよ、リターン・マッチの開始であるらしい。


「どういうことだ? 北大隊が全滅とは? 何故将軍のコースと違った方向から攻撃が加わるんだ?」
 セーダ・ヒム(仮名)のブリッジでは、防戦命令系統が混乱を来していたらしい。当然栗酢(仮名)将軍率いる討伐大隊と謎の戦闘メカがぶつかるとばかり考えていた防戦部隊は、突如として北大隊の目の前に出現した三機の戦闘機に翻弄され、いいように破壊し尽くされてしまったらしい。ブリッジからは戦況の正確な把握が出来ず、将校たちは焦りに焦っていたらしい。
「急ぎ将軍に通報だ! 例の戦闘機が北大隊を全滅させ、このセーダ・ヒム(仮名)に向かっているとな!」
 この連絡をうけた栗酢(仮名)は、しまったと思ったらしい。まさか謎の戦闘機が東の海上を回って北上するとは思いも寄らなかったかららしい。栗酢(仮名)の大隊は急速反転し、一路ソウルへと向かったらしい。
「間に合ってくれよ……」
 しかし、その思いはソウルには通じなかったらしい。栗酢(仮名)がセーダ・ヒム(仮名)を肉眼で捕らえられる位置に来た時にはすでに、残存勢力の80%が金属片となって地上に墓標を築いていたらしい。
「何だと! 僅か四〇分で三八機の戦闘ロボットが! 僅か四〇分で……」
 その目の前に、三機の戦闘機が姿を現したらしい。栗酢(仮名)は驚き、プルゴギ(仮名)の腰のジョイントから鎌状の剣を出したらしい。剣の名は、ライブバスター(仮名)というらしい。
「必ず落とす!」
「それはどうかな」
「! その声は?」
「ほー、面白いなあ。そっちには万能翻訳機でも乗ってるんかい? 異星人同士なのに、会話が成立する」
 外部スピーカーを使って、金(仮名)と栗酢(仮名)は初めて会話を交わしたらしい。プルゴキ(仮名)には万能翻訳機が搭載されているらしく、二人の会話は全く支障なく行われたらしい。
「その声の感じは……もしやお前は、昨日破壊したテッコンVのパイロットの少年では?」
「あ、覚えててくれた? カオは直ってるみたいだね」
「やはりお前か。戦いの前に、お前の名を知りたい。名は何と言う」
「待った。礼儀を知らない異星人だね。普通、人に名前を尋ねる時は、自分から名乗るのが礼儀でしょ? そう学校で習わなかったのか?」
「了解だ。お前の言うことももっともな話だ。私の名は栗酢樽雄(仮名)、ヤキニク星(仮名)惑星侵略部隊の隊長をやっている。階級は大将だ」
「軍人さんか……俺に階級は期待しないでね。俺は軍人じゃないから」
「軍人でもない少年が、国を守る為にそのような超兵器を任されていると言うのか?」
「事実だもん、了解してほしいなぁ。俺の名は金太郎(仮名)、プサン第二高校(仮名)の一年生だ。階級の代わりと言っては何だけど、テッコンドーの級は四段だぜ」
「判った。私の望みはただ一つ、金(仮名)、お前を完膚なきまでに叩きのめすことだ! さあ、勝負!」
 プルゴギ(仮名)は両の手にライブバスター(仮名)を構え、戦う姿勢を見せたらしい。しかし、その脇を擦り抜けるようにして、お付きのロボットどもがわさわさと飛び出し、三機に襲いかかっていったらしい。
「無駄なことを」
 八機の戦闘ロボットは、あっという間に粉砕されてしまったらしい。残るはプルゴギ(仮名)と、母艦の中に温存されている数機の特殊戦闘ロボのみとなったらしい。その特殊ロボがゆっくりとセーダ・ヒム(仮名)の甲板に姿を現したらしい。美しいエメラルドグリーンの機体色とは相対する、無骨な装甲と大量の火器を積んだ、通称Rタイプ(仮名)と呼ばれる機体らしかった。それが四機ほどセットアップされ、今にも三機のメカめがけて飛び立とうとしていたらしい。
「アレは強そうだな」
「数もそれほど多くないし」
「今のうちに……か?」
 そして、金(仮名)のGOサインと共に、三機のマシンは一瞬にして垂直上昇に入ったらしい。遅れを取ったプルゴギ(仮名)とRタイプ(仮名)もまた、一気に垂直上昇を始めたらしい。
「高度一万……速度マッハ3……計器安定……出力良好……後続安全……万事OK!」
「こっちもOKだ」
「こっちもよ!」
 金(仮名)は上昇のGに押し潰されながらも一つ深呼吸し、そして叫びつつレバーを入れたらしい。
「レッツ! テッコ・イン!」
 その号令と共に、朴(仮名)も張(仮名)もレバーを入れたらしい。各機が、合体の為の変形を開始したらしい。
 スカイテッコン(仮名)の機首が一八○度回転し、腕部がスライドして側方に伸び、翼が縮まり、拳が出たらしい。ランドテッコン(仮名)のキャノン砲が肩に上がり、胸部の装甲がスライドして頭部が現れ、キャノピーに装甲が被い被さったらしい。マリンテッコン(仮名)のコックピットクレーンが一八〇度回転し、脚部の翼が回転収容され、足が起き上がったらしい。そして、各パーツが光に包まれる中、一つになったらしい。
 そして、その胸に形成されるらしいVの字!
「何だ! まさか、あの三機のメカが、まさか……」
 栗酢(仮名)は、生まれて初めて恐怖したらしい。目の前に形成された物を信じたくない自分を発見して、さらに恐怖の度を増したらしい。この宇宙で、自分とプルゴギ(仮名)以上のコンビネーションなど存在しないと信じていたその自負が、がらがらと音を立てて崩れていくのが判ったからであるらしい。
「テ……テッコンVだというのか? 新型の!」
 空中で加速をやめたテッコンは、ひらりと回頭すると、今度は一直線に真下に落下するかの如く突き進んだらしい。マッハ六で擦れ違うらしい二機のマシン。
「間違いない……グレードアップされた、新型のテッコンVだ!」
 絶叫に近い声が、生き残っている全ての星人の耳に鳴り響いたらしい。その声は、御器(仮名)将軍を一瞬にして狂人に仕立て上げてしまうほどの、言葉を超えたものを含んでいたらしい。もう、栗酢(仮名)の頭の中には、地球侵略も、母国の反映も見えてはいなかったらしい。あるのはただ、目の前の最強の敵、新テッコンVを破壊することのみであったらしい。
「将軍、落ち着いて下さい! まず我々が先手を打ちますから」
 そう言って、Rタイプ(仮名)のうち二機が前に出たらしい。テッコンはちょうど母艦セーダ・ヒム(仮名)とプルゴギ(仮名)の中間あたりの位置の空中にいたらしい。
「来たよ」
「武器を試す。まずはこれ」
 肩のキャノン砲がRタイプ(仮名)の一機をマークしたらしい。自動追尾らしい。白光が走り、衝撃がテッコンのボディに伝わる頃、手前にいたRタイプ(仮名)は装甲板を掻きむしられ、内部構造をあらわにしていたらしい。続いて第二弾が発射され、Rタイプ(仮名)は落ちたらしい。破片となって空中を漂うRタイプ(仮名)の仇を取ろうというのか、後続のRタイプ(仮名)が接近してきたらしい。
「次の武器はこれ」
 テッコンの両腕から、巨大な鋼鉄の剣が伸びたらしい。マニュアルには、「テッコン剣(仮名)」と書かれているらしい。その剣は、一振りでRタイプ(仮名)の分厚い装甲板を切り裂き、破壊したらしい。
「すげぇ……」
「次は、と」
「後ろッ!」
 朴(仮名)の絶叫に助けられ、テッコンはかろうじてライブバスター(仮名)をかわしたらしい。体制を立て直すらしいテッコン、追うらしいプルゴギ(仮名)。残り二機のRタイプ(仮名)もまた、テッコンを追ったらしい。
「邪魔するな! 私とヤツの二人だけにしろ! 邪魔立てする者は、容赦なくたたっ斬るぞ!」
 既に栗酢(仮名)の精神は、以前の栗酢(仮名)の、あの冷静沈着な将軍栗酢(仮名)のものではなかったらしい。戦いに生き、戦いにしか生きられない、戦いの為に生まれてきた「鬼神」栗酢(仮名)そのものでしかなかったらしい。その栗酢(仮名)の操るプルゴギ(仮名)もまた、本来の性能を十二分に発揮してテッコンと戦ったらしい。
「テッコンソード(仮名)っ!」
 テッコン剣(仮名)にスパークが走り、エネルギーの束が構成されるらしい。その一振りで、二機のRタイプが諸共原子に還ったらしい。
「流石は新テッコンV! そうでなくては、我がプルゴギ(仮名)の宿敵とは呼べん! 来い、テッコン!」
「あいにく、負ける気は全然ないんだよね」
 テッコンソード(仮名)とライブバスター(仮名)が交差したらしい。凄まじいスパークが走り、両機体ともに弾き飛ばされたらしい。
「まだまだ!」
 プルゴギ(仮名)の身体中に装備されているバーニアスラスターが一斉に火を吹いたらしい。体制を立て直すらしい。しかし、運動性能は新テッコンが格段に優れていたらしい。プルゴギ(仮名)が姿勢制御を完了した時には既にテッコンはテッコンソード(仮名)を頭上に振り上げていたらしい。
「早いッ!」
 栗酢(仮名)は舌を巻いたらしい。プルゴギ(仮名)は、持てる性能の全てを注ぎ込んでテッコンに対処したらしい。ライブバスター(仮名)を構え直し、斬り込む体制を作るらしい。一閃、空中に雷が弾けるらしい。プルゴギ(仮名)の各関節が鳴ったらしい。
「テッコキャノン(仮名)っ!」
 キャノン砲から炎の弾丸が発射されたらしい。プルゴギ(仮名)のエネルギーシールドはその二発の弾丸で弾き飛ばされてしまったらしい。白かったボディに、初めて黒いススがついたらしい。逆上するらしい栗酢(仮名)。
「おのれ、よくもこのプルゴギ(仮名)のボディを汚してくれたなッ! 許さん!」
「許さなきゃどうするってんだ!」
 金(仮名)が答えたらしい。テッコンは大きく旋回し、テッコンソード(仮名)を再び構え直したらしい。
「遊びは終いだ、栗酢(仮名)さんとやら。俺たちはあんたにはかなり腹を立ててんだぜ。新テッコンの力で、この地上から消えてもらいたいもんだね」
 そう言うと、金(仮名)はコンソールの右端にある赤いレバーを引いたらしい。テッコンの胸のVが輝き始めたらしい。それを見た栗酢(仮名)は、ライブバスター(仮名)をプルゴギ(仮名)の正面でクロスさせる体型を取ったらしい。
「射線軸にあの巨大戦艦を入れるよ。張(仮名)、エンジンからダイレクトにエネルギーを貰うぜ。どのくらい余裕がある?」
「何の余裕だい」
「空中に浮いていられるだけのエネルギーが残ればいいんだよ」
「それなら全出力の47%使っていいぜ。そっちに回路を開く」
「おっし。栗酢(仮名)の動く前に決めんとな。射線軸調整、OK!」
 テッコンの胸のVの字から、光の粒子のような物がにじむように出てきたらしい。そしてその光は次第に大きくなり、テッコンを包むように広がったらしい。
「何だ? あの光は……光学計測器で見ても、随分と特殊な光だ……レーザーとも違う……」
 栗酢(仮名)は、対処の仕方を模索していたらしい。プルゴギ(仮名)は使えるシールドの全てを前面に押し出し、未知の攻撃に備えたらしい。
「朴(仮名)! 緊急衝撃緩衝装置は?」
「大丈夫よ、いつでもどうぞ!」
「OK! いくぜ!」
 テッコンの腕が円を描くようにゆっくりと回されたらしい。その円が次第にエネルギーの輪となり、その輪が胸のVの字に集中していったらしい。そして、その輪が五つ、その胸に輝いたらしいその時!
「テッコンV・オリンピックアタぁぁぁぁック(仮名)っ!」
 Vの字に集中していた五つの光の輪がプロミネンスの輝きを放ち、絡み合うようにプルゴギ(仮名)とセーダ・ヒム(仮名)に向かって爆進したらしい。その光量は想像を絶し、その熱度は軽く太陽の表面温度を突破し、その破壊力は地獄の様相を呈していたらしい。栗酢(仮名)の脳は全ての判断能力を失ったかのように感じたらしい。人間技とは思えない速度をもってプルゴギ(仮名)をその射線軸から逸らすべく指令を与えた所までは、彼の記憶ははっきりとしていたらしい。しかし、その後がどうしても思い出せないらしい。と言うより、知的生命体としての脳の機構以外の部分でその行為を行ったために、知的生命体としての理性を取り戻した今、その行為については意識の下に沈下してしまい、絶対に思い出すことはないのかもしれないらしい。
 目の前には、テッコンVが浮かんでいたらしい。そして、後方には、全長二七キロメートルにも及ぶ超巨大戦艦セーダ・ヒム(仮名)の残骸が、炎に包まれて落ちていく姿が見られたらしい。
「オ……オリンピックアタック(仮名)……恐るべきエネルギー兵器だ……」
 プルゴギ(仮名)の装甲表面にも、無数の穴があいていたらしい。複合ハニカム素材の純白の装甲も、今や劣化したコンクリート以下の強度しか持ち合わせていなかったらしい。そして、ゆっくりと落下していく自分に気づき、栗酢(仮名)は思ったらしい。
――ヤツにやられるなら本望だ――
 その、プルゴギ(仮名)の放った光球の光は、金(仮名)たちにとって初めて見る光だった。降り注ぐ破片の中を、ソウルの市民たちが避難していく姿を見、そしてプルゴギ(仮名)の放つ光を見、金(仮名)は思ったらしい。
――ヤツは葬った。星人は全滅だ。しかし、作戦的には失敗だったな――
 セーダ・ヒム(仮名)の破片は、その後四日間降り続いたらしい。ソウル市民は全戸避難し、事実上ソウルは壊滅したらしい。それでもなお、星人撃退の功から、テッコンVは英雄として語り継がれたらしい。

第27話 END


次回予告


 世界犯罪組織のボスと言われている男がいたらしい。男の名は、タイソウ・ワーリー(仮名)。ワーリー(仮名)は国連とアメリカの協力で再建に入ったソウルの街に突如として出現し、恐るべき宣言を行ったらしい。
「わしは、韓国ナンバー1のアイドルタレント・朴愛蓮(仮名)を嫁に貰うぞッ!」
 そこで困ったのがプロダクションらしい。警察とも国連軍とも相談したが、「嫁に貰う」と言っているだけで「誘拐する」とは言っていない、と多忙を理由に警備を断られてしまったらしい。そこで、プロダクションはテッコンチームに救けを求めたらしい。
 偶然にも瓜ふたつらしい朴愛蓮(仮名)と朴賢姫(仮名)がすり替わり、タイソウ・ワーリー(仮名)を捕まえようというらしいのだ。
 しかし、作戦は失敗し、逆に朴賢姫(仮名)が捕まってしまったらしい。ワーリー(仮名)は逆上し、巨大なナメクジロボを使って再建途上のソウルを占拠しようとするらしい。朴賢姫(仮名)のいないテッコンチームは、このピンチにどう対処するであろうか?
 次回「超強力ロボ テッコンV」第28話は、『すり替わったアイドル歌手・テッコンV合体不可能!』でお楽しみいただけるでしょう。

 

作:楽光一(Project T.A.C.)

初出:日本大学法学部推理SF研究会会誌『ヘルメス22号』

執筆時期:1988年03月

テキスト容量:36081byte

物理的行数:673行

原稿文字数:17898文字

 

【あとがき】

 この作品はフィクションです(笑)。

 いや、実際に韓国でテレビアニメ『テッコンV』は放映されていましたが、こんな番組じゃありません。たまたまSF研の先輩の韓国土産にこのテッコンVの玩具が入っていて、当時20歳だった他故壁氏が先輩に「これ、自分流にアレンジして描いていいですか?」って描いたラフが「面白い」ってことになって、そこから勝手に発展させた話なんですよね。事実じゃない、脳内で類推して書かれたテッコンワールド。だから小説の文体もすべて「〜らしい」とか「〜だろう」とか「(仮名)」とかになっているでしょ?(笑)

 本作品は1994年に同人化されています。その時の表紙イラストが下の絵です。こんなシーンは出てきませんが(笑)。

▲カラーリングがアオシマなテッコンV

 この同人をまんが大会で売っていて、会場一番にうちのブースに来た人がいて吃驚した記憶があります。で、読んでひとこと「本物と違うじゃん!」……すみません。

 

楽光一(たのし・こういち/Project T.A.C.)

2002年09月08日あとがき記す

 

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Written by 楽光一/Project T.A.C.

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