【こんなゲームをやった】

新日本プロレスリング 闘魂列伝

トミー/プレイステーション用ソフト 5800円

by江戸村沙樹

 

 平成8年1月4日、またひとつプロレス界に異変が起こった。
 アントニオ猪木を筆頭とする歴史ある巨大なプロレス団体――新日本プロレスが、かつてない未曾有の驚異に曝されてしまったのだ。
 かつて猪木が提唱し、代々新日本プロレス内において日本を代表するヘビー級チャンピオンの腰に巻かれていたIWGPのベルトが、ついに他団体に流れていってしまった。
 挑戦者・高田延彦。UWFインターの若きトップ。昨年10月9日、王者・武藤に挑戦するも、ドラゴンスクリューで膝を破壊され敗退。再挑戦で雪辱を狙う。
 対する王者・武藤敬司。昨年5月に橋本真也を破り、IWGP第17代ヘビー級チャンピオンに輝く。以降防衛戦5戦、高田との再戦が6度目の防衛戦となる。
 試合は緊張感に満ちていた。高田の蹴りか、武藤の技か? 高田は蹴りの中にグラウンドからチキンウイング・アームロック、腕ひしぎ逆十字、ヒールホールドを折り交ぜて武藤を苦しめる。一方、武藤は得意技のムーンサルトからお返しのチキンウイング・アームロック、そして10月9日を彷彿とさせるドラゴンスクリューから必殺の四の字固めに……。
 しかし、ドラゴンスクリューへの固執が徒になったか、武藤はタックルの時に首を取られ、そのままグラウンドから腕ひしぎ逆十字を食らってしまう。王者、無念のギブアップ! 高田の手にIWGPのベルトは渡り、新日マットから18代目の王者は去っていった……。
 長いフリになったが、俺はこの試合をテレビで観てから、久しぶりに「新日本プロレスリング闘魂列伝(以下「闘魂列伝」と略す)」をやりたくなった。
 「闘魂列伝」は、昨年のプレイステーションのソフトの中でも屈指の出来を誇る、史上最強のプロレスゲームソフトである。これは断言してもいい。否、昨年度の全アクションゲームソフト中の最高傑作である、といっても過言ではない。
 このゲームの特徴はいくつかある。
1)ポリゴンを使用した奥行きのあるアクションゲームである
2)対戦ゲームであり、プロレス(格闘)ゲームであるにもかかわらず、いわゆる「対戦格闘ゲーム」とは一線を画すゲームシステムを持つ
3)選手が全員実名で、しかも固有の技を実にリアルに再現している。人間の動きを超越した描写がない(数メートルもジャンプするとか、触れただけでふっとぶ必殺技があるとか、そういった描写がない)ことも好ましい
4)CD−ROMを使ったゲームにありがちな「ローディング時間」がほとんど感じられない親切なプログラム
5)そして何より、「ひとりで飽きずに長く楽しめる作り」になっている
 とまあ、ざっと挙げただけでも五つほどある。
 このゲームの最大の特徴は、何と言っても2)だ。このゲームは、いわゆる「ストリートファイター」から始まった例の対戦格闘ゲームとは全く異質な「対戦格闘ゲーム」なのである。
 使うボタンは四つ。△が「ストレッチ(関節)技」、○が「スープレックス(投げ)技」、×が「打撃(蹴る殴る)技」、□が「ダッシュ、エスケープ、フォール、技のキャンセル」。
 そして驚異的なのが、いわゆる「ガード」がない、ということだ。
 技をガードする、という概念がない格闘ゲーム。では、相手の技を受けたい、返したいときはどうすればいいのか――ここに「プロレス三竦みの法則」が適用される。
 実例を挙げよう。レスラーAが「スープレックス技」でレスラーBを投げようとした。レスラーBはAの「投げ」の挙動を見て、おもむろに「打撃技」を出す。Aの投げはBの蹴りによって無効化され、Bの蹴りがAに入る。
 「スープレックス技」は「打撃技」に負ける。「打撃技」は「ストレッチ技」に負ける。「ストレッチ技」は「スープレックス技」に負ける――これが「プロレス三竦みの法則」である。
 簡単に言えば、ジャンケンだ(しかも「後出しOKジャンケン」なのだ!)。このゲームは、一見「対戦格闘ゲーム」というジャンルのような外見になっているが、実は「ジャンケンゲーム」なのである。
 単なるジャンケンに終わらないのは、□ボタン――「ダッシュ、エスケープ、フォール、技のキャンセル」という、ジャンケンにないキーがあるためだ。
 このキーがないと、ダッシュしてからの技(フライングニールキックやラリアットなど)やバックを取ってからの技(ジャーマンスープレックスやコブラツイストなど)、場外に逃げたり上がったり、またフォールしたりストレッチ技をキャンセルしたりができない。
 昨年の9月に発売された、今となってはとても新製品とは呼べない商品だが、しかし全く侮れないゲームである。新日本プロレスが好きで、格闘ゲームに擦れていない、アクションゲームの好きな人にはうってつけのゲームではないだろうか。
 俺の周囲の、格ゲー大好き連中にこのソフトを持って行ってみると、たいてい「見ていた方が面白い」とか「操作が覚えられない。なんか適当な感じで燃えない」などと嘯く。
 いや、そんなことはない。このゲーム、実に奥が深いのだ。狙って特定の技を出せるようになるには、相当の修行が必要となる。武藤のシュミット式バックブリーカーからムーンサルト・プレスなんぞは、おそらくアキラの崩撃雲身双虎掌より難しいと思うぞ。
 何てったってこのゲーム、技は全てタイミングなのだ。いわゆるレバーあっち方向こっち方向+Aボタン、という格ゲーコマンド式とは全然違う。相手がこの方向、自分がこの方向、相手の体力がこのくらいのとき、「スープレックスは自動的に○○スープレックスとなる」のだ。だからちょっとでも立ち位置が違っていたり、相手のグロッキーの度合いが違っていたりすると、もう自分でも予期せぬ、見も知らぬ技が出たりする。ちょっと楽しい(笑)。
 さあ、今からでも遅くはない。走りなさいプレステユーザーよ、飛びなさいプロスレスファンよ。このソフトは「買い」ですぞ。プレステのソフトはいつ買っても定価販売だ(どこで買っても、とは最近言えなくなったようだが)。
 トミーには次回作としてぜひ「新日本プロレス闘魂伝説――80年代初頭版」を作成していただきたい。猪木が、ホーガンが、アンドレが、ブッチャーが、佐山タイガーが、ダイナマイト・キッドがいた頃の、あの頃のプロレスでゲームがしたい!

1996.01.27

 

オールレンジレヴュー「こんな……」にもどる