サプライズ。

6

 ──バンッ!
「どういう事なのお母さん! ゴオちんはどこにいるの? どうして皆わたしを騙そうとしてるのっ!」
 ベースの一番奥、葵博士の研究室。そこに疾風のように現れた杏奈は両手を霧子の机に叩き付けて、思い切り怒鳴った。当の霧子はのんきに煙草を燻らせている。その姿は杏奈をますます苛立たせた。ぐるりと机の向こうへ回り込み、直接対峙する。──しばしの沈黙。口を開いたのは、霧子だった。
「そんなに怒らなくてもいいじゃないか」
「だって皆ゴオちんの居場所教えてくれないんだもん! 首謀者はお母さんだって芝草さんが言ってたって事は、お母さんゴオちんの居場所知ってるんでしょ、教えてよ!」
 やれやれ、と霧子はこれ見よがしにため息をついた。ポンポンと杏奈の頭を軽く叩き、諭す。
「皆、お前の事を考えて一所懸命やってる事なんだ。ゴオの居場所を教えたら、計画自体がポシャる可能性があったからね。別に悪い事はしてないと思うよ」
 一所懸命やってる? 計画? いきなりここに来てよく判らない単語を続けざまに聞き、杏奈の頭はクエスチョンマークがいっぱいになってしまった。話してくれる可能性は低いが、当たって砕けろということで聞いてみる。
「……何それ。計画って何を計画してるの?」
 案の定霧子からは答えは返ってこなかった。ただ、良く霧子の表情を観察してみると、口の端がひくひくとしている。笑いをこらえているらしい。
(なんでなんでなんでーっ! なんで皆わたしに何か隠し事してて、しかもとっても楽しそうなのーっ!)
 杏奈が今にも暴れ出しそうになったまさにその時。
 ピルルルル、ピルルルル。
 電子音が聞こえてきた。霧子が胸元に隠しておいた通信機を素早くとる。
「ああ、私だ。……用意ができた? 判った。こっちは杏奈が今にもキレそうでピンチだったよ。タイミング良かった。じゃあ連れて行くから」
 パチンと通信機を閉じると、にっこりと微笑んでくる母親の顔に、杏奈はとてつもなく不安を覚えた。
「さあ、ゴオが呼んでるよ。一緒に行くかい」
「もちろんっ! 望むところよ」
 だが、ゴオの名前を出されるとそんな事はどうでも良くなった。やっとゴオに会う事ができるのだから。自分の手を引っ張る霧子の腕にはまっている時計を見ると、既に時刻は十時半を指し示していた。三時間半近くもベース内をうろついていたという計算になる。その間行方をくらませていたゴオ、彼は一体どこにいるのだろうか。たくさんの期待とほんの少しの不安に胸を膨らませながら、杏奈はおとなしく霧子に手を引かれて歩いて行った。
 

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